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【第2部】

新機軸とミリ単位の追い込みで、
コンパクトサイズを追求

ローランド ディー.ジー.の新製品開発プロジェクトは、企画案に役員承認が下りてから正式にスタートする。具体的には企画チームがまとめた企画書をベースに、エンジニアであるTプロデューサーが製品仕様に落とし込んでいくのだが、彼は当初、このコードネーム「ME08」の企画について、それほど難易度は高くないと感じていたという。

(E.T.)ME08は、今まで不可能だったことに挑戦するのではなく、既存の仕組みを組み合わせて、安くて良いものをスピーディに作りましょうというコンセプト。プリンターヘッドも上位機種と同じものを使えば、商品性を高めながら開発コストを下げることができます。ローランド ディー.ジー.の持っている資産をギュッと詰め込めばいいので、技術的にはできそうだという手応えがありました。

しかし、製品企画を具体化するために、メカ設計、ハードウェア(エレキ)設計、ソフトウェア(ファーム)設計の各チームと協議を重ねていくにつれ、ME08の開発は予想外に困難だということがわかってきた。そのひとつが「小型化」の実現である。

(E.T.)プロジェクトが正式にGoする前から開発方針の裏付けを取るために各チームに相談するのですが、まず直面したのがどうやってテーブルトップサイズを実現するかということです。

というのも、実はME08ではエントリーユーザーの使い勝手を高めるために、脱臭装置を内蔵するという目標を掲げていた。一般的に、UVプリンターは脱臭装置が別売となっており、追加コストや設置場所が求められる。これを内蔵することのメリットは大きくTプロデューサーとしてもこだわりのポイントだったが、そのためには脱臭装置を内蔵しつつサイズダウンを果たすという、二律背反を解消しなければならない。
その難問に挑んだのが、メカ設計のチーフを務めたR.K.と、ハードウェア(エレキ)設計チーフのS.M.だった。

(R.K.)メカのハイライトは、これまでの製品とは全く設計思想が異なる構造と、脱臭装置の開発でした。脱臭装置については、ローランド ディー.ジー.としては初めてフィルターまで自社で設計することで、求められる性能を必要最小限のサイズで実現することに成功しました。一方、大きなチャレンジだったのがプリンターの核であるプリントヘッド/テーブル周りの構造です。

ME08は、立体物に加飾できる「フラットベッド」型のプリンターである。実際の印刷時は、アイテムを乗せたテーブルが前後に動き、プリントヘッドが左右に動くことで絵を描いていくのだが、対象物が立体の場合はここに「高さ」の概念が加わる。そのため、従来のフラットベッド型プリンターでは、テーブルに取り付けた昇降装置ごと前後に移動させる機構を採用していた。

(R.K.)ただその方式だと、装置全体の高さが出てしまい、小型化が難しい。そこでME08では発想を逆転させ、これも初となる前後方向の機構ごと昇降させる方式に改めたのです。

ところが、それだけでは課題は解決しなかった。前後方向の機構の重量を受け持つことになった昇降装置のステッピングモーターが、スムーズに動かないという問題が発生したのである。
そこでR.K.とともに問題解決に当たったのが、モーターやセンサーの選定をはじめ、基板や配線などハードウェア設計を担当したS.M.だ。

(S.M.)モーターの負担が大きくなったため、特に動き出しのトルクが足りないと脱調する(動き出さない)というのが課題でした。単純に考えればモーターを大きくすればいいのですが、ME08には低価格というコンセプトもあるので、できるならモーターは変えたくない。そこでモーターの出力特性を細かく分析して、R.K.さんに「モーターを最大限に使えるポイント」を伝えたんです。

そのデータシートを元に、モーターの出力軸の位置関係や機構の軽量化など、打てる手は全て打ったR.K.。コストを上げることなく、新しい機構を実現することに成功した。

(S.M.)コンパクトさという点では、配線も一苦労でしたね。特に前後駆動・昇降駆動と動きが大きく複雑なテーブル周辺の配線では、FFC(フレキシブルフラットケーブル)というフラットで柔軟性の高いケーブルを採用したのですが、可動域を確保しつつ部品との干渉を防ぐのは至難の作業でした。

(R.K.)「ここ、1mmちょうだい」なんてやり取りもありましたね(笑)。